都会の雪
ふと病室の窓の外を見ると、雪が降っていた。
東京で降る雪にしては珍しく、車の屋根の上に降り積もるほどの勢いで、しんしんと雪は降りつづけている。
「泉ちゃん、見て、ほら。雪。田舎を思い出すな…」
「ほんと…でも、あたし、都会の雪はあまり好きやないのよね。あたしも小さい頃、たまに雪が降ったときに
雪だるまを作ろうとしたことがあるんやけど、表面に泥がついててあんまり綺麗に作られへんかったから…」
私の名前は佐野泉。大阪から単身で東京に出てきたのはいいけど、小さい頃から体が弱くて、不本意にも
今こうして病院のベッドの上にいる。
話相手の名前は、新庄桜。あたしと同い年で、あたしと同じように山形から東京に出てきたんだけど、
色々あって今こうしてあたしの隣のベッドの上に寝ている。
「…東京に出てきてから、もうどれくらいになるかな…」
「そうやね…あたし、そんなことあんまり考えたコトあらへんけどな」
「私ね…あなたのこと、時々羨ましく思うの」
「え?なんでまた?」
「だって泉ちゃん、東京へ出てきてもそのまんまって感じだもん。私がこっちへ出てきたとき、言葉も標準語に
合わせたり、慣れない習慣とか流行とか追っかけようとして。でも、泉ちゃんは言葉も関西弁のままだし、
自分の考えもちゃんと持ってるし…」
「またぁ〜、それは単にあたしが不器用なだけやん」
「泉ちゃん、自然に生きてるんだって感じがするもん。私なんか、きっとどこかで無理してるんだろうなって思うよ」
「まあね…でも、いくらそんなこと言うてたって、こんなところに居てたら、意味ないよね…」
「…」
「……あたしたち、いつまで生きてられるんやろ……」
「……」
「………毎日毎日こうして、ここで暮らしてて。別に彼氏がおるって訳でもないし…」
「やめようよ。そんなネガティブな考えは、泉ちゃんに似合わないよ」
「……ありがとう。そやね…人間、どんなことがあっても、前向きでなきゃ」
「暗いこと言えば言うほど、不幸が近寄ってくるよ」
「…うん…」
窓の外は、白い雪がさっきよりもさらに勢いを増して降っている。まるで私達の不安を煽るかのように…
と思うのは、単なる思い過ごしなのだろうか。それとも…
「ガチャッ」
と、病室のドアの開く音がして、看護婦長が入ってきた。
その姿を見た私達は、ベッドの上から飛び跳ねるように起き上がった。
「佐野さん、新庄さん。あなたたち今日夜勤でしょ!こんなとこでサボってないで、早く見まわりに行って来なさい!!」